1991年12月21日土曜日

VARIOUS 「パロキシズム Vol.1」


UKハウス・シーンの現状

UKハウス・ミュージックの最新潮流は、
クラブ・サウンドとしての"バレアリック・ビート"と、
レイヴ・サウンドとしての"ハードコア・テクノ"の2つの流れに大別できる。
と言っても何のことだかサッパリ解らない人も多いと思うので、
簡単に説明することにしよう。

 まず確認しておきたいのは、
現在イギリスでは2種類のハウス・パーティーの存在の仕方があるということだ。
一つは500人程度のキャパシティーの
比較的小規模な"クラブ"に於けるパーティーで、
もう一つは週末に数千人単位の人を集めて行われる
大規模な"レイヴ"に於けるパーティーだ。
どちらかと言うと、前者は20代のクラバー中心に支持されており
入場料は£5程度がー般的。
一方、後者の支持層としてはハウス・ジェネレイション以降の10代もかなり多く、
最近では入場料が£20以上もする大掛かりなイヴェント形式のものもある。
しかし、単純にクラブ・パーティーを大規模にしたのが
レイヴ・パーティーと考えるのは間違いで、
両者は本質的に似て非なるものと言えるだろう。
実際にクラバーはあまりレイヴを好まないし、
逆にレイヴァーは殆どクラブに遊びに行かないという説もある。
どうやらクラブとレイヴの支持層は、今や二極分化しつつあるようだ。
何故かって? 
それはおそらくDJのプレイするサウンドに決定的な違いがあるからだろう。
最近のロンドンのクラブ系DJは、
テクノあり、ガラージありのフリースタイルな選曲をするDJが多いが、
レイヴ系DJともなると、もうテクノ一辺倒なのだ。

 '91年8月に僕がロンドンに遊びに行った時は、
ラテン・パーカッションやピアノをフィーチャーした、
いわゆる"バレアリック・ビート"や、ソウル風のヴォーカルをフィーチャーした
"ガラージ"のようなハッピーなハウスがクラブ・サウンドの主流だった。
この秋~冬にかけて、さらにカラージ熱が高まっている横様。
 一方レイヴでは、いわゆる"ハードコア"と呼ばれるテクノが主流で、
クアドロフオニア、T99、キュービック22、ザ・プロディジーといった
20歳そこそこのテクノ・キッズによる攻撃的なサウンドが主流になっている。
"ハウス版ヘヴィ一・メタル"、
あるいは"ホラー・ハウス"などとも呼ばれるハードコア・テクノは、
小さなクラブで体験すると苦痛以外のなにものでもないのだが、
大規模なレイヴでは充分に効果を発揮するようだ。

 また、最近ではクラブで流行しているバレアリック・八ウスの要素と、
レイヴで流行しているハードコア・テクノの要素が
1曲の中にうまく混ざり合った曲も登場し始めている。
例えばビザール・インクの'Such A Feeling'や、
DJ力-ル・コックスの'I Want You(Forever)'のような曲は、
バレアリックDJとハードコアDJの両方にプレイされており、
今後こうしだ"バレアリック・テクノ"や"テクノ・カラージ"と呼ばれる
クロスオーヴァー・サウンドがUKハウスの奔流になりそうな気配だ。

パロキシズム

 本CD『パロキシズム』は、
現在のテクノ・ハウス・シーンを知る上では格好のー枚と言えるだろう。
この作品はMUTEがディストリビュートすることになった
ロンドンのトップ・ハウス・レーベル"ブラック・マーケット"の
コンピレーション・アルバムである。
 参加アーティストは、北ロンドン出身の20歳のDJ/リミキサー"DJ・マッシヴ"、
同じくロンドン出身の"デシヤ(DESIYA)"、"アルファ3-7"、
"A.Z.T"(以上ブラック・マーケット所属)と、
デトロイト出身の実験的テクノ・ユニット"アンダーグラウンド・レジスタンス"、
LAのアシッド・テクノ・ユニット"DCB-A"を加えた6アーティストである。

 DJ・マッシヴが手掛けた①'マッシヴ・オーヴァー・ロード'
⑬'マッシヴ・オーヴァー・ロード(リミックス)'はハードコアDJも好んでプレイしそうな
ヘヴィー・ベースがカッコイイ極上のテクノ・チューン。
⑦'ポイント・オブ・インテンシティ-'⑫'バンピー'はともにヒップ・テクノだ。
すべてロイ・ラスプリラ(Roy Lasprilla)という名前(DJ・マッシヴの本名?)が
作曲者としてクレジットされている。
 デシヤことマシュー・パークハウスによる3曲のうち
②'2・パーツ'はブレイク・ビ一ツに乗せて
メリッサという女性シンガーが歌うメランコリックな曲。
⑥'カミン・オン・ストロング'は同じくメリッサによる
ソウルフルなヴォーカルをフィーチャーしたUKテクノ・ガラージだ。
⑩'トライ・アゲイン'は沈んだ感じのチープ・テクノで今一つか?
 アンダーグラウンド・レジスタンスの③'アドレナリン'は
初期のシカゴ・アシッドを思わせるヒップ・ハウス調のナンバー。
このユニットは自身のアンダーグラウンド・レーベルから
既に10枚以上のアヴァンギャルドなテクノ12インチをリリースしている。
 アルファ3-7ことクリス・アチャムポン(Chris Acham-pong)による④'レットミー・テル・ユー'は
ラガマフィン調のラップや女性ヴォイスをフィーチャーしたジャジーなピアノが印象的な曲。
⑧'トゥー・ポジティヴ'、⑪'バブー'はともにヒップ・テクノだ。
 DCB-Aの⑤'アシッド・ビッチ'は、タイトル通りのアシッド・ハウス。
ブリープ音やヴォイス・サンプルは3年前の音という感じだが、
LAでは今頃アシッド・ハウスが流行っているのだろうか?
 イタリアのリミニ辺りでもプレイしている
ロンドン在住のDJ・デイヴ・ピッチョーニによるA.Z.T.の
⑨'チョイス・オブ・ア・ニュー・ジェネレイション'は、
クールなシンセが気持ちいいシンプルなテクノだ。

 本CDに収められた曲は大ヒット・チューンこそないが、
アンダーグラウンド・ハウスの最良の部分を集めたような内容になっている。
また、アルバム・タイトルの"パロキシズム"という耳慣れない言葉には
"周期的発作"という意味があるようだが、
テクノ・ハウスでケイレン的に踊る快楽は、まさに"パロキシズム状態"と言えるだろう。

テクノ・イズ・バック!

 前述の通り、イギリスに於けるクラブ・サウンドの主流は、今やテクノ・ハウスではなく、
歌やピアノをフィーチャーしたガラージ・サウンドへと向い始めている。
テクノがかかるクラブはマンチェスターやシェフィールド辺りにはまだ存在するが、
ロンドンでは既にまったく下火になっている。
 しかし、一方ではレイヴの盛り上がりによってテクノ・ブームが再燃していることも確かだ。
'80年代のロンドン・アシッドハウス・ムーヴメントの時には、
まだローティーンだったような少年たちがレイヴに夢中になり、
ハードコア・テクノに夢中になっている姿を見ると、
もはやハウスは新たな次元に突入したのではないかと思われる。

 ハードコア・テクノを作っている連中の多くは20歳そこそこで、
またそれに夢中になっているのは10代の少年が大半だ。
ハードコアはハウスを知らない子供たちに圧倒的に支持されているだ。
ハードコア・テクノはハウスとは別ものではないか? 
特にベルギーのものは、ハウスというよりもインダストリアル・ロックに近いものが多い。
刺激物のようなサウンドは、
個人的にはネガティヴな感じがしてあまり好きになれないのだが……。

 しかし、ハードコアDJも好んでプレイする極上のテクノはぜひチェックすべきだ。
それは例えばロンドンのヴァイナル・ソリューションのEON、デプス・チャージ、
ビザール・インク、ミディ・レイン……や、
NY出身でベルギー等で活躍しているジョエイ・ベルトラム、
ZTTのシェイズ・オブ・リズム、シェイメン、
そして本CD収録のDJ・マッシヴなどなど。
これらのテクノはハウスの本質的な部分、すなわちポジティヴィティーを感じさせる音楽である。
 楽しくなければハウスじゃない!――これが基本だ。

小泉雅史(REMIX)

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