1999年3月25日木曜日

エレクトリック・ミュージック「エスペラント_プラス」


エレクトリック・ミュージックの本題へ入る前にお約束のクラフトワークの話をすこしばかり‥。


それにしても昨年(98年)はちょっとしたクラフトワーク旋風が巻き起こった。なんといっても強烈だったのは17年ぶりの来日公演。赤坂ブリッツで3日間行われた公演は連日満員礼で、これだったら武道館でも出来たんじゃないかというくらいの盛況だった。個人的にはスペインでもライヴを見る機会があってまさに感無量この上無い体験だった。クラフトワークへの熱狂ぶりというのは何も日本だけでなく、あらゆる国でズバ抜けた支持が感じられる。仕事の関係でいろんな国の中古レコード屋を回っているが、どこへ行ってもクラフトワーク関係のレア盤は高いのなんのって(笑)。もう切が無いので完璧にコレクションするのはとっくに断念しているが、値段が高いということはそれだけ需要があるということで彼らの世界的なカリスマぶりが伺える。91年の「THE MIX」以降、正式なクラフトワークとしてのリリースは無いものの(余談だが、97年にEMI、クリングクラングからオフィシャルもの限定250セットの4枚組BOXセット+Tシャツがリリースされた。トライバル・ギャザリンでのライブを記念したものでトランス・ヨーロッパ・エキスプレスのインスト・ヴァージョンも収録されている。さらに後に4枚のシングルをバラして1000枚ずつプレス。これは一応正式リリースということになるのか??)ラルフとフローリアンのオリジナル・メンバーを残してカールとウルフガングが相次いで脱退しソロプロジェクトを進行している。


そろそろ本題に入っていくが、周知のようにこのELEKTRIC MUSICがカール・バルトスのグラフトワーク脱退後のユニットだ。今回リリースされたこの「エスペラント~プラス」は93年にリリースされたファースト・アルバム「エスペラント」(独SPV 084 92832)をリマスタリングしなおして、さらにボーナス・トラックを6曲加えたもの。日本だけの独占企画盤ということだ。まずリマスタリングに関してだが、大袈裟な変化は無いもののさらなる微妙な音の処理が施されているものと思われる。クラフトワーク時代もそうであったが、微妙に音が違うヴァージョンが何種類も存在している故にその伝統を引き継いだものか。今ぼくの手元にあるのは試作段階のカセット・テープだが、微妙にサウンド処理が違うと思われる箇所がいくつか認められた。オリジナルの「エスペラント」をお持ちの方は2枚同時にプレイしたりして微妙な違いを発見して楽しんでみて下さい。参加アーティストはカール・バルトス御大の他に70年代末にヴァージン・レコード傘下のディンディスク(モノクローム・セットやマーサ&ザ・マフィンズ等も在籍)からデヴューしてエレクトロ・ポップを先導してきたOMDことオーケストラル・マヌヴァーズ・イン・ザ・ダークのアンディ・マクルスキーがヴォーカルで、さらにクラフトワーク時代からの付き合い、エミール・シュルツがアートワークを担当している。ミキサーはステファン・イングマン、続いてポーナストラックだかELEKTRIC MUSICのシングル盤を輸入盤でお持ちの方はお分かりだろうが、9曲目から12曲目までは93年にリリースされた3枚目のシングルにあたる「ライフスタイル」(ASPV 055-93853)からのもの、13曲目と14曲目は92年にリリースされたファーストシングル「クロストーク」(ASPV 056-110363)からのものである。なお「ベイビー・カム・バック」は1968年のエディー・グラントによるファンキー・ロック・パンド、イコールスのヒットでおなじみのクラッシク・ロックン・ロール・ナンバーのカバー。ちなみにこの曲だけエンジアはジョン・カフェリーが担当している。そういえば賛否両論(否の方が圧倒的に多い?)のセカンド アルバム「エレクトリック・ミュージック」のオールディーズ・ロック志向はこの段階で既に見え隠れしていたといえるのではないだろうか。「べイビー・カム・バック」はシングル「クロストーク」に収録される以前にイギリスの有名な音楽誌ニュー・ミュージカル・エキスプレス(NME)による編集盤の三枚組CD「RUBY TRAX」(英NME 40 CO)に収録されていたものである。


さて、このアルバム「エスペラント〜ブラス」に収録されている音源は92、3年頃のものであるが当時始めていた時の印象というのは正直言うとちょっと古臭いなというのが本音だった。というのも時代はテクノ新世代が台頭してきており、エイフェックス・ツインだのケン・イシイだのアンダーグラウンドレジスタンスだの新たな方向性を提示する若いテクノ・クリエーターが次から次へと名乗りあげてきていた状況だったからである。次から次へとハウス・ミュージックの流れを汲んだテクノサウンドがクラブなどでもてはやされ、80年代的なメロディアスなエレクトリック・ポップ、あるいはテクノ・ポップといった類が妙なレトロ感を臭わせていたのである。本家クラフトワークでさえ「THE MIX」ではハウス的なアレシジ(とはいってもあくまでもクラフトワークはクラフトワークの音になってしまうのだか)を大胆に取り入れ時代の流れを取りこもうとした。そんな現期の中、このELEKTRIC MUSICはもろにストレートにテクノポップのド真中に入ってきたので本当に惑ってしまったのだ。だが、こうして改めて聴きなおすと妙にしっくりとくる、故器に帰ってきたかのような安感があるのである。ぼくの世代はウルトラヴォックスやヒューマン・リーグ、ヘウン17、ゲイリー・ニューマン、デベッシュ・モード、ヴィサージ、ソフト・セル・・・挙げれば切が無いが、そういったサウントを思いて育った。特にOMDのアンディの声を悪いた時に思わずニヤリとした方は同世代でしょう。「エスペラント」は最近には無い聴ける音楽、そう音楽が聴けるのはあたりまえだが、しっかりとを腰を据えて聴いていたいエレクトロニック・ミューシックなのだ。ポップスの黄金時代なんてのがあったとしよう、カール・バルトスがこのELEKTRIC MUSICで表現したかったのはそのポップスのすばらしさ、メロディの楽しさではなかっただろうか。エレクトロニックなスタイルはそれを表現するための一つの手段ではなかったのだろうか。特にセカンド・アルバムを思いた時にぼくはそう思った。カール・バルトスが若い頃心打たれたロックンロール、オールディズ・ポップス、シンプルでしかりとしたメロディこそがELEKTRIC MUSICの一番の特徴でありすばらしさであるだろう。思えばクラフトワークのあのメロディ・センスのすばらしさはカール・バルトスの手前によるところが多いのは確かた。だれもが口ずさめるメロディ、シンプルなコード・ワーク、軽快なビート、やはりクラフトワークでカールの存在というのは大きなものだったに違いない。ELEKTRIC MUSICではその音楽的な部分をさらに発展させたユニットだといえるだろう。そういった点では本当に何か忘れていた感覚を蘇らせてくれる、そんな作品なのだ。昔は良かったなんて言うつもりはこれっぽっちも無い。今がいいに決まっている。そう思いたいし、実際にそうありたい。だが世紀末の混法とした時代にはもう一度自分の辿った道を振り返るのも重要である。本当に今の時代は全くもって混沌としすぎている。今だからこそ改めてこのELEKTRIC MUSICを素直に受け入れられる気持ちになったといえるだろう。テクノというジャンルももはや取り望めのないくらいに幅の広いものとなった。エレクトロニック ミュージックだけでほくらは十分にいろいろな表情を楽しめる。アンビエント、テトロイト・テクノ、シカコハウス、プログレッシヴ・テクノ、ゴア・トランス、ミニマル・テクノ、ドラムン・ベース、エレクトロ、ビッグビート、ブレイクビーツエレクトロニックのカテゴリーはもうロック以上に広がったのではないか? そんな中にELEKTRIC MUSICのようなサウンドがあってもまったく和感は無い。そう、今だからこそ。


ELEKTRIC MUSICはセカンド アルバム「ELECTRIC MUSIC」を昨年リリースしたが、次の予定は今のところ不明、そういえばカール・バルトスがクラフトワークの「ツール・ド・フランス」をセルフ(?)カバーし「ツール・ド・フランス98」としてリリース(TOUR DE FRANCE RACING HITS 211(WARNER 398424027-2)という2枚組のコンビ)しているという情報があるか残念ながら私はまだ現物を持っていない。最後に、このCDに収録の「CROSSTALK」、「TV」、「LIFESTYLE」はプローション・ビデオが作られており、カールも顔を出す楽しいものなので根会があれば是非まとめて日本でりリースしていただきたいものだ。

(佐久間英夫)


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