1991年12月21日土曜日

VARIOUS 「ハウス・サウンド・オブ・ジ・アンダーグラウンドVol.6」


  ポップスシーンの中にあって、とりわけ展開がめまぐるしく、またそのスピーディな動向がファンにはたまらないハウス・ミュージック。その移ろいやすいシーンの中でも、ハウス誕生の瞬間から現在に至るまで、常に次の動向の指標となる、云わば牽引車的リリースを続けているレーベルこそが、FFRRである。そのFFRRに集まった未知の新人を大挙フィーチャーし、ハウス界の動向を分かりやすく楽しませてくれる“これ一枚でオッケー”なコムピレイション・シリーズが、『HOUSE SOUND OF…』なのだ

 86年、ハウスの第一号ヒット「ミュージック・イズ・ザ・キー」を含む『HOUSE SOUND OF CHICAGO VOL.1』は本国イギリスは勿論、日本を含む全世界の、ダンスファン以外の人々にもハウス・ミュージックを注目させるきっかけとなった、記念碑的アルバムである。このアルバムのヒットによって、メジャー・レーベル初のトップハウスレーベルと云う確信を得たFFRRは、『同VOL.2(CHICAGO TRAX)』、『ハウス・サウンド・オブ・シカゴ・VOL.3(ACID TRACKS)』と云う怒濤のリリースを敢行。とりわけVOL.3における、当時の本拠地シカゴの、未知な部分の多かったアシッド・ハウス紹介は、またしても偉業。僕も、これでアタマばっくり開いた一人です。

 そして88年には、育ちつつあった自国のアーティストに目を向けた『ザ・ハウス・サウンド・オブ・ロンドン・VOL.4』をリリース。このアルバムからはD-MOB、サイモン・ハリス等が、頭角を現わしてくる。そして、イビザ帰りのDJ、ダニー・ラムプリングがクラブ“SHOOM!”で新たなスタイルのDJを開始。FFRRでは、ラムプリング達のかけていた、所講ユーロ・ハウスを積極的に紹介する。『HOUSE SOUND OF EUROPE VOL.5』89年秋のことだ。

 この辺りからのハウスミュージックの目まぐるしい成長ぶりについては改めて振り返るまでもないだろう。ヨーロッパからはブラック・ボックス等のポップ・ハウスや、T99に代表されるハードコアテクノが抬頭し、イギリスでもハウス、と云うよりハウスビートを用いた、キャシー・デニスやベティブ一等のダンス・ポップが、チャートの常連となった。そして本シリーズのVOL.1に収められていたシカゴ・グレイツの大部分はN・Yへ進出。メジャー・レーベルの仕事をソツなくこなしている。

 改めて現在のハウスシーンを眺めてみれば、一見隆盛をきわめているかのようにみえるが、果して本当にそうだろうか。ロンドンの海賊放送局KISS-FMは、そのユニーク且つこだわりに満ちたプログラムで、ダンスファンにとって愛すべき存在だったが、めでたく正式認可を取得した後のKISSと云えば、他でも聞けるヒットチューンをヘヴィ・ローテーションする、つまらない局になってしまったと聞く。アーティストだって、レコード会社だって、放送局だって、より多くの支持を得たい。これは、ポピュラー音楽なら当り前の事。でも、おかげでどうだろう。今、チャートをにぎわすクラブ・ミュージックの中に、かの「ジャック・ユア・ボディ」と同じ位、存在感を放つ作品がどれだけあるのだろう。“より多くの支持を得ようとした時、そのパワーは水増しされていく”。今回、FFRRから久々に出された「ハウス・サウンド・オブ・ジ・アンダーグラウンドVOL.6』は、僕達にそんな命題を投げかける、本当のミュージック・ラヴァーにこそ聞いてほしい力作である。

 それでは、多少の資料とシングル盤のクレジット等から判明した、各アーティストのバイオグラフィ並びに、各曲の印象をまとめてみよう。

●フリーフォール[フィーチャリングサイコトロピック]/新幹線みたいに強引なビート(何と131.7BPM!)にピアノ・リフと女性のサムプル・ヴォイスが、レイヴ!なフリーフォール。間にはさまれるブヨブヨしたアナログ・シンセ音からして、プロデューサにして、自らをフィーチャーしたりソルト・ン・ペパーと共演シングルを出したり、出たがりサイコトロピック氏はLFOと同じタイプのシカゴ・アシッドフォロワーとみた。

●クラブハウス
●カペラ/ミラノをベースに活躍するイタロ・ダンスの古株、ジャンフランコ・ボルトロッティの作品が続く。クラブハウスの結成は83年にさかのぼり、現地ではすでにかなりのヒットを持つが、デヴィッド・モラレスのリミックスによる今回の「ディープ・イン・マイ・ハート」は、彼らにとって初の本格的ハウス・スタイルであると同時に、全米ダンスチャートNo.1と云う記念すべき作品。そしてKLFをユーロ・ボディタッチにパワーアップし、ヒットを狙うカペラは、以前にもM・A・A・R・Sの『パムプ・アップ・ザ・ヴォリューム』のあからさまなパロディで、人気を博したこともあるので、御存知の方もいると思う。FFRRでは、このボルトロッティ2作品をカップリングしたりミックスシングルをリリースする予定もあると云う。

●DSK/本アルバム中、僕が最も気に入っている、キャッチーなガレージ・チューン。マイアミのダンス・レーベルHOT PRODUCTIONのプロデューサー(2ライヴ・クルーのパロディ・チーム、2 LIVE JEWSのメムバーでもあるおちゃめな)ジョー・ストーンの結成したハウスユニット。ガレージ・マナーを踏襲した曲作りも見事だが、投げやりなようでいて、しっかりゴスペルしているジョイストーン嬢(fromフィラデルフィア!)のヴォーカルが何と云ってもグー。地元マイアミで小ヒットしたのに目をつけたFFRRが、すかさずメジャー契約。御大スティーヴ・"シルク"・ハーレイのリミックスで、めでたくUSダンス・チャートイン。本アルバムに収められているのは、オリジナル・ヴァージョン。

●スラム/そのS・ハーレイも秘蔵っ子グループ、ジョマンダの『GOT A LOVE FOR YOU』のイントロで用いた、チープなシンセをメインにフィーチャーした、超気持ちE一曲。典型的レイヴ・チューンだ。

●キューバ・グディング/イギリスのナイトクラバーにはなつかしい、83年にロンドン・レコードから発売されたダンスクラシックのリミックス。スキャットをはさんだ、ヌケヌケにジャジィなヴォーカルも、クラシック・ブームの今聞くと又格別也。オリジナルのミックスは、日本では"ワイルドスタイル"ロンドンではサルソウル・レーベルのピアニストで著名なアーサー・ベイカーだけど、このリミックス、もしかして…。

●ユタ・セインツ/日本でも、from UKのMTV番組で話題先行の曲がこれ。リーズ出身のジェス・ウィリスは、ニュー・ウェイヴ・バンド、CASSANDRA COMPLEXを脱退後、地元MILE HIGH CLUBの70'sディスコ担当となる。同じクラブの違う曜日にスピンしてたティム・ガーバットとジェスは意気投合。DJコンテストでならしたティムのプログラミングとジェスのクラシック趣味で作られたのが、「ホワット・キャン・ユー・ドゥ・フォー・ミー」だ。グウェン・ガスリーとユーリズミックスのフレーズを大胆に引用するも、白ジャケ・ブートの時点で、ユーリズミックスからクレームがつき、FFRRがローヤリティ問題を解決し、今回の正式リリースとなった。こりない二人は「パンクっぽいサムプリングで行きたいんだ。」とイキまいてる模様。

●フォトン・INC.[フィーチャリング・ポーラ・ブライオン]N・Y系のハウス大好き人種にはお馴染み、STRICTLY RHYTHM原盤のストロングな曲。プロデュース/クリエイトは、かのDJピエールだっ! 今もシカゴで頑張るマーシャル・ジョファースンと共にTB303を使い、PHUTURE名儀でアシッド・サウンドを連発し、近頃はN・Yのヒップハウス一人者として活躍。最も新しい情報では、ラガ・アシッドDJ、ボビー・コンダースとの、移動大型クラブ"WILDPITCH"のレギュラーで人気再熱との事。この曲もN・Yでは"WILD PITCH MIX"と銘打たれたヴァージョンでプリ・リリースから人気フライングするも、本アルバムでは、オリジナルが収録されている。

●クラブソーン・1/このチームも、先述のユタ・セインツと同様の経緯によるリリースだ。OH'ZONEと云う、どマイナーの白ジャケ・リリースから、正式発売され、小ヒット。FFRR側のメジャー・リリースで我々の許へ届いたこの曲、主人公がJAZZY Mと云うDJであると云う事以外、一切不明。踊れる曲だけに、残念。

●バンデラス/このアルバムでも、日本で一番知名度が高いのが、このグループだろう。キャロラインとサリーと云う二人組のデビューアルバムは、ペット・ショップ・ボーイズ等で有名な、ステファン・ヘイグのプロデュースと、バーナード・サムナー(ニュー・オーダー)、ジョニー・マーの参加で話題をよんだ、ダンスと云うよりポップアルバムである。にもかかわらず、本アルバムでは堂々のラスト・ナムバー。この辺りが、このコムピレイションの憎いところなのだ。かつてソウルIIソウルが、「人生に戻ろう、現実にかえろう」と歌い、世界中のクラバーを熱狂させたように、イタリアのベテラン、マッシミーノ&ファビオ・Bのリミックスによる、このヴァージョンは、アカペラで、こう歌われる。「あなたの人生の目的は何?/真実は何処?/あなたの希望、憶えてる?」たしかに、日本のニューミュージック歌手でさえも敬遠する、クサいフレーズだけど、イリーガルな真夜中のクラブで、大音量で体験したら…CHILL OUTまちがいなし!

 『アンダーグラウンド』をキイ・ワードに集められた、FFRRのコムピレイション'91こそは、クラブ・ミュージックが失いかけてる、スタイリッシュさ、ビート感、インチキさ、青臭さ、不良っぽさをBRING BACKしようとするメッセージにあふれている。どの曲もチープっぽいけど、若々しくて、イカシてる。スピード感があるよ。久々にハウスをCDで聞いて、ハマリました。みんな、サンキュー!

[91・10・22 本根誠]

0 件のコメント:

コメントを投稿