1992年10月21日水曜日

The Prodigy 「‎エクスペリエンス」


THE PRODIGY~ブレイクビーツテクノのポップスター登場。

~ニューウェイヴ・テクノよ、さらば!~
 レイヴ・サウンドトラックがぐうっとハードコア・テクノ主導型に傾くきっかけとなったのは文句なくKLFの「WHAT TIME IS LOVE」のヒットからだろうけど、彼ら自身は登場の時点ですでにハードコア・アーティストとしては失格な、ニュー・ウェイヴ~プログレッシヴ・ロックを引きずった“残党”だったと思うんです(そこが彼らの面白さでもあるんだけど)。彼らって、世が世ならピンク・フロイドとか、フリップ&イーみたいなことやってポップスターになりたかったにちがいない。でも彼らはそんなにストイックじゃなかったし、時代も別に聖人君主なんか求めてなかった。で、彼らはそこに生じるジレンマを数々のラジカルな行動で紛らわしたり、クラバー達のドラッグ好きを逆手にとってCHILL OUT=プログレ・オマージュ活動したり、楽曲の中に、彼らのルーツであろうEL&PやMC5を挿入したり…。

 何かこう、切ないって云うか、やりきれないんだ。モロ手を挙げてさわげないんだよ、ニューウェイヴ・ロックの“残党”が作るハードコアでは。KLFを筆頭としたロック・ノリ・ハードコアのファンが、マッシュルームカットの"残党員"と扇子振り乱し系のボディ・コンシャス軍団にばっくり分かれるのも、好きじゃない。ハードコアは君の過去を引きずって楽しむものじゃない。ハウスの変種なんかじゃない。ハードコアは、君のT-シャツを汗だくにするための、全く昔ながらの“単なるダンス音楽”なんだ。XX思想の香りで、よろしく!ってとこで改めて紹介しよう、エセックスのテクノ・ヴィザード、ライアム・ハウレット率いるプロディジーで、さわげー!

~プロディジーはレイヴ・エイジのアイドル~
 (2NDシングル「チャーリー」の爆発的ヒットについて)『正直、あんなに当たるとは思ってなかった。ちょっとウンザリしてるよ。僕は常にアンダーグラウンドシーンを意識して曲作りをしてるのに、メジャーヒットを出してしまったから、もうアンダーグラウンドとは呼ばれなくなっちゃったんだ』。

 何と云う志の低さ!素晴らしい。メジャーなチャートで健闘するより、自らの立脚するレイヴ・シーンで人気者でいられなくなる事を心配するハウレット君は20才の正真正銘レイヴ・エイジ、アンダーグラウンドなら任せろってフリして、チャート・セールスに有効な国内売上を伸ばす為に初回プレス分を輸出ストップさせるKLFおぢさんズとは、思考の原点が違うよな。もう何度も云ってる事だけど、ロバート・ジョンスン。彼はもの凄く偉大なブルーズ・ミュージシャンだけど、果たして、『後世に残る、素晴らしい黒人演奏家になろう』と思っていただろうか。答えはメイビー・ノー、だろう。偉大な人もそうでない人にとってもセールスはフトコロを潤す大事な要素だけど、音楽衝動の発端と云えば何と云っても自分の目の前でさわいだり、泣いたり踊ったりしてくれるクラウドからのレスポンスだと僕は思う。そう云う点からみればハウレットの志の低さが現代英国流舞踏会、レイヴ・バーティーを活気づけているのは確かだと思うし、ハウレット君てじつは、すごくミュージシャン・シップに富んだ男の子だと思うんだけど。
 では、ハウレット君=プロディジーがレイヴ人気者になるまでの背景を追ってみよう。エセックス生まれのハウレット君は幼い頃からクラシックの勉強をするピアニストだったけど、イギリスにラップが上陸するとすぐさま反応、CUT TO KILLと云うラップ・チームのDJになるが、その暗いメッセージの数々に幻滅。抬頭していたレイヴ・シーンに触発され、サンプラー、シークェンサーを購入しハードコアをオタクで作りはじめる。'91年2月リリースの1STシングル『WHAT EVIL LURKS』はハードコア賛歌としてレイヴ・シーンで圧倒的な支持を受け、続く『CHARLY』では、イタリアでのポップスターなみの支持のあおりを受け、プリ・リリースからトップ40入り。ラップ・チーム時代の経験をフルに発揮したブレイクビーツ・テクノの(早くも)クラシック、『EVERYBODY IN THE PLACE』(4曲入り)は発売2週目でナショナルチャートの2位を獲得。
 すっごいですねえ。キーボード類を買ったのが89年の12月で翌年2月にいきなりデビュー。そして、うなぎのぼりのレイヴ・スター。何故こんなにも短期間で大きな成功をものに出来たのかと云えば、レイヴ・パーティーには不可欠のライヴ・パフォーマンス(レイヴP.A.と呼ばれる)でレイヴァーを中心としたファンを着実につかんでいったからに他ならない。ライヴではハウレットの繰り出すハード・ビートに合わせてダンス担当のリロイ&キース、ラガなまりの狂騒的なMCのマキシマム・リアリティがあおるあおるの大熱演をくり広げるらしいのだ。
 『XLとして契約するか否かは次の二点で決まる。まず、プロモ段階でレイヴDJ達のウケがいいかどうか。いくら周到なビデオ作ってもXLとしてはレイヴから離れてヒットは作れない。そして、プロディジーがいい例だけど、レイヴ・P.A.がキマるかどうか。ライヴのノリはすごく重要だ。XLは90年代のモータウンを目指しているからね(笑)』。―XL-RECORDINGSのA&R担当リチャード・ラッセル氏―
 なるほど、プロディジーの所属するXL・レーベルごとレイヴー色で、かなり焦点絞った活動してるんだ。それで、ブラガ・カーンやキュービック・22とか、ここのレーベルと契約したアーティストは次々人気者になるのね。

~ブレイクビーツテクノでさわげ! RAVE ON~
 と云う事で、レイヴ・シーンが作り出した初のレイヴスター、プロディジーのプロフィールについては何となく解って貰えたと思う。ここで話を再びKLFにあたりとの違いについて戻すと、極言すればプロディジーの音作りは、シーンをにぎわす他のどんなアーティストともキレまくった違いを見い出せはしまいか。そう、プロディジーはひたすらコピずに、引きずってナイ。ここが格好いいんだよな。
 T-99/クオドロフォニア、R&S系のニューウェイヴ残党ノリとも。ALTERN8のホワイトノイズ・テクノとも。2アンリミテッド~L.A.スタイルのポップ・ハードコアとも。プロディジーは全くシンクロしてません。比較解説(?)でちょっと恐縮だけど、そう思うでしょ?プロディジーのブレイクビーツ・テクノは君がこの、全く意味を持たない音でハッピーになれるかどうかだけで決まる、理屈抜きにヒップなダンスミュージックなんだ。
 『デトロイト・テクノ?ケヴィンやジュアンは確かにテクノの功労者としてはグレイトだけど、本当はあんまり影響されてない。ボクが本当に影響を受けてるのはレイヴに集まってくるヤツらさ。彼等に対して、いかにハードなRAVE―さわぎーを与え続けられるかがプロディジーのテーマなんだよ』。
 レイヴ・エイジのポップスター、プロディジーのサウンドが、レイヴを離れた所でも威力発揮するのは、このアルバムを手にしている君達がよーくわかってくれてると思う。
 さあ、ヴォリュームをグッと上げて!
(1992.8.14 本根 誠)

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