1996年1月26日金曜日

ムービング・シャドウ-クロニクルズ・オブ・ハードコア


  クラブDJやレコード・コレクターの大部分は、レーベル買いができるレーベルを個々にそれぞれ持っている。それが、ハウスだったり、テクノだったり、ヒップホップのレーベルであったり、ジャンルに違いはあるが、それぞれ信頼できる良質のレーベルという共通点がある。この信頼という2文字がポイントで、ここで言う信頼とは、確固たるポリシーを貫き通していること。おのずとレーベルのアイデンティティある音をイメージできることが必然的に必要になってくる。商売や金儲に色気を出さず、こだわりを持ったリリースに撤する本物志向なレーベル。このような条件を満たすレーベルは、数少ない。これからご紹介するMOVING SHADOWは、ジャングル・レーベルの中で、多くの人達から、信頼できるレーベルの筆頭にあげられているレーベルだ。「メロディが美しく、芸術的。それでいて、DRUM&BASSもクラブ・ユースで、しっかりしている。」MOVING SHADOWのサウンドイメージに対し、このように答えるジャングリストは多い。(余談だが、僕も95年において、アナログ盤を最も多く購入したレーベルでもある。もちろん僕にとっても、レーベル買いを安心してできる数少ないレーベルのひとつだ。)レーベルのしっかりとしたサウンド・イメージを定着させるには、実際にサウンドデザインが描け、音楽にかなり精通した知識の持主の存在が要求されるMOVING SHADOWでは、レーベル・オーナーであるロブ・プレイフォードが自らその大役を担っている。

 1985年ぐらいから、ヒップホップのクラブDJとしてDJデビューしたロブは、後にハウス・ミュージックに魅了され、ハウスのDJに転向、その後アシッド、ハードコア、そしてジャングルへと傾倒。90年にMOVING SHADOWを設立した。もともと、エンジニア、マニユピレイターとしての評価が高かった彼は、自ら、2 BAD MICEというユニット名で、91年以降、精力的に作品をリリースしてきた。さらに、95年のジャングル・シーンの向上に大貢献したゴールディーのマニュピレイターとして、ゴールディーのアイディアを、ロブの才能あふれるマニピュレイティングとエンジニアリングで具現化。絶賛を浴びたゴールディーのアルバム「タイムレス」には、まさしくロブの才能が光っていたのだ。ちなみに、ロブのフェイバリッツ・アーティストは、クインシー・ジョーンズ、ナイル・ロジャース、そしてマスターズ・アット・ワークにデヴィッド・モラレス。さすが、プロダクション・ワークとスタジオワークを兼任している彼ならではの答えである。


 さて、ここで本アルバムに収録されている曲についてふれていきたい。まずは、DISC-1のトラック①から、重厚なベースラインとヒップホップに通づるビート、そして途中から飛び出すチェンジ・ザ・ビートを使用したスクラッチ。もしかすると元ヒップホップDJだったロブがこすっているのかもしれない。いずれにしろロブのデザインによる曲であることには間違いないだろう。(92年3月リリース) ②は、トッド・テリーの影響を思わせる作品。パーカッションのサンプリングも効果的に使用。(92年10月リリース) ③は、ヌーキーの初期の作品。ハードコアハウスに傾倒していた彼のセンスが伺い知れる。(93年3月リリース)④は、MOVING SHADOWを代表するFOUL PLAYによるリミックス・ヴァージョン、ハードステップのルーツ的作品。(93年7月リリース) ⑤は、言わずと知れたロブ・ヘイのワンマン・プロジェクト、オムニ・トリオの名曲のリミックス・ヴァージョン。FOUL PLAYのリミックス・センスがキラリと光る。(94年1月リリース) ⑥は、トナカイがサンタを乗せて雪国を走る光景をついついイメージしてしまうアンビエントなトラック。でもトナカイさん転ばぬように気をつけてね! 途中テンポがスローダウンするところもトナカイを思いやる気持ちか? (93年12月リリース) ⑦は、94年に来日し、ハードコアなDJプレイを堪能させてくれたレイ・キースをフィーチャーしたハードステップの名曲。(94年6月リリース) ⑧は、ドライなキックにエッジの効いたベースラインが印象的なトラック。それにしてもヌーキーって、美しいメロディ作るよね。今度、松尾"KC"潔に聴かせて美メロのラインナップに入れてもらおう。(94年7月リリース) ⑨は、ジェイとアレックス、そして女性シンガーでもあるケリーの3人によるジャジーなユニット。まさに彼らのサウンドってジャズ・ステップというネーミングがはまりそう。(94年8月リリース) ⑩は、ソウルフルでダイナミックな女性ヴォーカルをフィーチャーしたトラックベースラインも重厚。いいサウンドシステムのあるクラブで体感したい一曲。(94年9月リリース) ⑪は、ロンドンのジャングル・パーティーでパワープレイされていた曲。またこの曲にMCがばっちりはまります。(94年10月リリース) 


 続いては、DISC-2の①からMOVING SHADOWの今後を担っていくであろう注目のユニット。クールでジャジーなサウンドは96年主流となりうるジャズ・ステップ・ジャングル。個人的にクラブとラジオで押してます。(95年末リリース) ②は、色っぽいホーンの音がたまらないジャズステップ。街のイルミネーションが似合うムードあるトラック。恋人とのドライブにどうぞ! (95年末リリース) ③は、ジャズ・ハウスに通づるトラック起承転結がきれいにまとまっているメロウでなごめる曲。こちらは、アフター・アワーズにどうぞ! (95年6月リリース) ④は、オムニトリオもジャズ・ステップにトライといった作品DJ KRUSTの名曲「JAZZ NOTE」のフレーズがフィーチャー。(95年7月リリース) ⑤は、映画のサウンドトラックを思わせる雄大なアートコア・ジャングル。人気のDJ BUKEMがSPEED"でスピンしてそうな曲。(95年7月リリース) ⑥は、BLUE NOTEでFABIOもスピンしていたジャズ・ステップ。それにしてもJMJ&RICHIEのここ最近の作品は、かなりイイ! (95年7月リリース) ⑦は、オリジナルよりもさらにジャジーにしたリミックス・ヴァージョン。この曲もアフターアワーズにどうぞ! 時々入る女性の叫び声は、グエン・ガスリーのサンプリングに違いない。(95年7月リリース) ⑧は、セクシーなジャズステップ。トランペットの泣きは、トム・ブラウンの名曲「FUNKY FOR JAMAIKA」のサンプリング。(96年リリース) ⑨は、タイトルのごとく都会の香りのするトラック。でも時折入るパトカーのサイレンが治安の悪い街を臭わす。(95年7月リリース) ⑩は、こちらもクラブで使用頻度の高いジャズステップ。もちろん僕もヘヴィー・ローテーション中です。(95年7月リリース) ⑪は、ロンドンのKISS-FMでよくオンエアされていた曲。そういえば、ジャイルス・ピーターソンもアクア・スカイ押していた。(95年8月リリース)


 いうことで、本アルバムの収録曲を簡単に紹介してみたが、やはりMOVING SHADOWは、はずれなし! 特にここ最近のトラックは良質のジャズ・ステップが多く、特にオススメ! あなたもレーベル買いしませんか?!

DEC.1995 Toshiaki"DAZZLE--T"Komiya


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