「最近何か面白いレコードある?」
ライターという職業柄、僕はこのような質問を受ける機会が多い。まあ、大体こんな時は新しく買ったばかりのレコードの中から印象に残った幾つかを答えるようにしているのだけど、それがダンス・ミュージックとなるとそう簡単にはいかなくなってしまう。毎月発売されるレコードの数なんてそれこそ星の数ほどあるわけだから、当然全てをチェックするなんて不可能だし、サウンドのスタイルも目まぐるしく変化するから、昨日までは格好良かったスタイルが今日はもう格好悪い、なんてことがザラにあるのだ。したがって、冒頭の質問にダンス・ミュージックに限って答える為にはシーンに対して常に細心の注意を払うことが要求されてくる。全く、厄介なものを好きになっちまったもんだぜ(だからこそ楽しい、という部分もあるんだけどね)。でも、聴き手のこれぐらいの努力は、作り手の努力に比べると楽な方なんだろうなあ。
例え一つのスタイルを確立したとしても、それに固執することなく常に前進しなければならない。ダンス・ミュージック、特にテクノはこの使命を背負い、様々なジャンルの音と異種交配を繰り返した結果、今まで幾つもの斬新なテクノ・アーティストやレコード・レーベルを輩出してきた。だが、残念なことにその中でも良質な作品をコンスタントに発表し続けることが出来たアーティストやレーベルはほんの一握りに過ぎない。殆どは一瞬輝いたきり、そのまま消えていってしまった。
「悪く言えば、使い捨てってことでしょ?」
確かに、そんな状態に虚しくなる人も多いことだろう。「それだけ流行の流れが速いと僕はもうついていけないし、作品の当たり外れも大きいから、テクノのレコードって安心して買えないんだよね」などと言いながら、思わず無難なジャンルのレコードを買ってしまう人も多いことだろう。
しかし、ちょっと待って欲しい。大事なことを忘れていないだろうか? この移り変わりの激しいテクノ・シーンの中で良質な作品を次々と我々に届けてくれるレーベルがあることを。そして、その数少ないレーベルの中の一つが、このXLレコーディングスであることを。
それではここでXLレコーディングスについて簡単な説明をしておこう。XLとは、1989年にシティ・ビート・レコードのティム・パーマーとニック・ホークスによって設立されたダンス専門レーベルである。最初はアメリカのハウスを地道に発表していたが、91年にベルギーのT-99の「アナスターシア」を発表したのをきっかけとして、ハードコア・テクノに急接近。その後、キュービック22の「ナイト・イン・モーション」やザ・プロディジーの「チャーリー」など出す曲が軒並み大ヒットを記録し、瞬く間にハードコア・テクノの看板レーベルへ成長を遂げたのであった。そして、92年に入ると、SL2の「オン・ア・ラガ・チップ」でブレークビーツとレゲエをドッキングさせたラガ・テクノという斬新な手法も提示。ザ・プロディジーに至ってはアルバムも発表し、ブレークビーツ・テクノ旋風を音楽シーンに巻き起こした。まさにここにきてXLはテクノの新たな次元へステップを踏み出したのである。
このように、XLは特定のカラーに染まることなく常に変化し、良質なアーティストを我々に紹介してくれる数少ない信頼出来るレーベルと言えるであろう。そして、いつまでもその姿勢をキープしてテクノの最前線を走り続けるヴァイタリティーには全く驚く他ない。
今アナタが手にしているこのCDは、そんなXLの最新作品がギッシリ詰まったオムニバスである。ここには現在のテクノの姿は勿論の事、これからのテクノの進むべき道までもがバッチリと示唆されており、全てのダンス・ファンにとって興味深い一枚となること必至だ。では、どのような曲が収録されているのか早速見てみることにしよう。
オープニングを飾るアンダーワールドは、ロンドンのトップ・アンダーグラウンドDJ&リミキサーとして活躍するダレン・エマーソンのユニット。壮大な空間の中をパーカッシヴなサウンドに乗って飛行しているようなドラマチックな構成が見事だ。
2曲目は、ぜひ大音量で体験していただきたい作品。空間を切り裂くようなノイズ攻撃はアナタが今まで体験したことのないマゾヒスティックな快感を味わわせてくれるはず。
続いてのジョニー・Lはロマンティックなヴォコーダー・ヴォイスの囁きが印象的なナンバー。最近のテクノっていうか、どうしても情緒といった要素を切り捨てがちな傾向が強いけど、この作品のように、ちょっと切ないメロディーをヴォコーダーを通してサラリと表現した作品もやはり良いなあ。いやあ、何度聴いても胸がキュンとしちゃうよ。これこそ90年代のラヴ・ソングだ!(と、一人で勝手に思い込んでいる)。
4曲目のリキッドの「フリー」は、謎めいた女性の声が耳に残る作品。全体的には地味な仕上がりながらも、聴いていると音の世界の中へ引きずり込まれそうになってしまう。
ミー・アンド・ジャックの「ビバ・ハウス」はタイトル通り、色々な音楽をサンプリングしまくるハウス/テクノの手法が堪能出来る曲。結構大胆にサンプリングしてる所もあるから、元ネタが分かった人は思わずニヤリとしちゃうんじゃないかな。
6番手のデルタ・レディーの曲は、最近PILのジョン・ライドンとの共演シングルが話題となったテクノ・ユニット、レフトフィールドが主催するレーベル、ハード・ハンズから既に発表されていたもの。音はモロにプログレッシヴ・ハウスで、反復されるグルーヴに身を委ねると気持ち良いったらありゃしない。
さて、この手のオムニバスだとそろそろダレ始めそうな中盤に控えているのがザ・プロディジー。曲は勿論大ヒットの「ワン・ラヴ」だあ。すっかり有名になったブレークビーツ・テクノもすっかり一般化しちゃったから、そろそろ次の方向を考えないとやばいんじゃないのー? なんて世間の無責任な発言をせせら笑うかのように、ブレークビーツを使いながらも、他の連中とは一味も二味も違う作品に仕上げるなんて、まったく凄い奴だぜ。
8曲目は、これまた反復の美学。まあ、確かに地味なんだけど、このウネリは体にクルなあー。
さてさて、先程も登場したジョニー・Lがここで再び出現。これは「オー・アイ・ライク・イット」とは対称的なかなり攻撃的なナンバーなんだけど、ただ激しく踊らせるだけでなく、聴き手の脳を心地好くマッサージするようなフレーズ作りのうまさには本当に感心させられる。
ジョニー・Lに続いてザ・プロディジーも10曲目に再登場。この曲は美しいピアノの旋律が効果的に使われているが、これは子供の頃からピアノのレッスンを受けてきたライアム・ハウレット(ザ・プロディジーの中心人物)だからこそなせる技だろう。先日の来日時に行われたDELIC誌とのインタヴューでライアムは「以前はラガを沢山やったけど、今はもう飽き飽きした。これからは、もっとテクノっぽいものをやるよ」と語っていたが、まさにその発言を裏付けるかのようなサウンドと言えよう。
11曲目は「アフリカ」というタイトルにピッタリの曲。テクノ・ミーツ・ネイチャーといったところかな?
そしてラストを飾るのは個人的にイチオシの曲、ドーム・パトロール「ザ・カッティング・エッジ」だああああああああ! ラストにふさわしい超盛り上がりナンバーだ、踊れ踊れー。パーカッシヴなグルーヴに身を委ねてエクスタシーへ一直線だ。……………スミマセン、思わず私の方が興奮しちゃいました。ところで、ブレイクの部分で使われているストリングスの音が何がサンプリングされているか分かります? そう、エコー・アンド・ザ・バニーメンの「ザ・カッター」なんですねえ。いやあ、この曲に着目するなんて素晴らしいセンスだなあ。おそらくこれからのテクノ・シーンは、こうした豊かな音楽的バック・ボーンを持ったアーティストが引っ張っていくんだろうな。
以上12曲いかがだったろうか? 実力派アーティストと才能豊かな新人アーティストに囲まれ、今後のXLに輝かしい未来が待っているのを実感出来たことと思う。しかし、それは決して一日や二日でなったわけではない。今まで一歩一歩着実に歩んできたからこそ、今日の姿があるのだ。だから今後もXLにはスピード・ダウンすることなく先陣をきって世紀末へ突進し、未来を切り開いてほしいと思う。なぜならそれは今や世界中のテクノ・ファンが望んでいることでもあるのだから。
小暮秀夫(DELIC)
