1995年6月21日水曜日

ムーヴィング・シャドウ&サブアーバン・ベース・プレゼント~ザ・ジョイント

 



JOINT

UKにおけるパーティの歴史についてざっと触れてみよう。

'87年頃より始まったウエア・ハウス・パーティ・シーンの規模はますます大きくなり、レイヴと呼ばれる様になる。'89年頃には英国中に広がり、各地で何千人何万人という規模でパー ティが行われるようになった。

この頃、このジョイント・アルバムCDの2つのレーベル、Suburban Baseレーベルのダニー・ドネリー氏とMoving Shadowレーベルのロブ・プレイフォード氏は、既に顔見知りのDJ同士として知り合っていた。ロンドンの北東部、電車で約30分程行った所。ダニー氏のホームタウンに、’Boogie Times’というダンス・ミュージック専門のレコード・ショップを開いたのが89年。その同時期、ロブ氏はMoving Shadowというレコードレーベルを、これもまたLONDONの北部、郊外をベースに始める。'91年に入ると、レイヴ・パーティもドラッグの悪いイメージの為、警察の弾圧により縮小を余儀なくされ、だんだん盛り下がっていく。ダニーもロブも、それまでメインだったDJ活動を減らし、クリエイティブな方向へ力を注いでいく。'92年には、ロブに次いで、ダニーもレコード・ショップの上にSuburban Baseという郊外をベースにした「Sub Bassのかっこいいレーベル」という意味あいを持ったレーベルを立ち上げる。尚、Moving Shadowの名前の由来は、友達が挙げたいくつかの名前の候補から、「クラブの中でゆれ動く、ダンスする影」というMoving Shadowを選んだというもの

この様なクラブ系の音楽では、12インチ・シングルをリリースしていくというのが通常。その場合、まずマスター・テープをカッティングする前に、ダブ・カッティングといって、1 枚〜2枚だけ試験的に皿にする事もしばしばある。そのダブプレートをもって、知り合い のDJやレコードショップで、回して現場の音を実感し、客の反応を見て、さらにミックス・ ダウンをし直す場合もあるし、そのままメインをカッティングするという決断を出す時もある。

Moving Shadowのロブは自分のレーベルの次のシングルのダブプレートや、また、その後 のテスト・プレスを友達の、ダニーの店、'Boogie Times'というレコードショップへ持って 行っては試聴し、対策を練っていた。また、その後'91年に、レーベルを発足させた Suburban Baseのダニーにとって、ロブの助言は有益なものであった。そして同時にお互い の音楽に対する信頼関係も深まっていった。Suburban Baseレーベルからは 'Drum and Base'というコンピレーション・アルバムシリーズが、'93年に出され、2枚目、3枚目をリ リースするうちに評判を呼び、大成功を収める。デザイン、アルバム・タイトルの選び方と いったようなダニーの企画力と選曲の良さが評価されたのだ。'Boogie Times'に出入りして いたロブのMoving Shadowレーベルの音 (サウンド)を気に入っていたダニーの申し入れに

より2つのレーベルの共同コンピレーション’JOINT I’を発売する事になった。そして、その後'94年に、’JOINT II’をひき続き発表した。このメルダックより、発売された 'Joint Album’は’JOINT I’と’JOINT II’を、更にジョイントさせて1枚にしたスペシャルバージョンである。今のところ世界でも、この日本発売のものしか手に入れることができないのである。初期のジョイントにはハード・コア系のものが多かったが、その中でも光っていたのが、2BAD MICEプロジェクトによるUNDER WORLDという楽曲。'92年頃の作品だが、この頃よりMoving Shadowレーベルの代表的な特色ともいえるIntelligent Jungleの傾向をはっきりと出している代表的な作品と言えるであろう。また、この2BAD MICEプロジェクトにはレーベル・マネージャーのロブ自らも加わっているのである。またSuburban Bassレーベルより参加D'Cruteプロジェクトの作品は ‘JOINT I '、'JOINT II’とそれぞれ一曲ずつ選曲されている実力のあるプロジェクトチームである。Claud Nineの'Blissful Knorance’や、Lick Back Organizationの’Ruff N Rugged'は、質の高いインテリジェント・ジャングルとして英 国でも評価は高い。また、Deep Blueの’The Helicopter Tune' は、ヨーロッパ・ジャングル界で大ヒットとなった。

ここで、少しジャングルという音楽の特徴と、またその中で、どのように分かれているかに ついて説明しよう。

ジャングルと言われ始めたのが、'87年〜'90年の間。いつも、新しい形態の音楽が生まれる時には、いろいろな人がいろいろな事を言うが、総合した地元ストリートのうるさ方の意見をまとめると、どうやらこの時期、イーストLONDONあたりのウエア・ハウス・パーティでラガのMCが、ハード・コアテクノのビートにあわせ、マイクでライブMCを乗せていたスタイル。ハード・コアとの大きな違いは、Big Bass Soundで、ベースラインと音色だけを、取り上げてみるとジャマイカのダンス・ホール・スタイルに似ていると言えるだろう。

そして、ビート感の違いは、ハード・コアの方は、ブレイクビーツといって、代表的なも のが、James Brownの昔の曲のドラム・パターンの一小節をサンプリングして、スピードをはやくして、BPM 130~150に上げ、ループを基本のグルーブとして使っているものが多いのに対し、ジャングルのビートとしてサンプリングしたものは、ドラム・マシーンのパターンを細かく切って、1拍、2拍、時には、1/4拍、半拍といったような、神技的なビートの組み合わせでグルーヴを作っているものが多い。サンプリングしたものをKeyboardにアサインし、それを手動でコンピューターに打ち込んでいるプロデューサーやプログラマーも、ジャングルには多い。ちょっと聴くと、速くて、チャカチャカしている様なビート感には、実に微妙なグルーブ感が隠されているのがジャングルの特色であろう。ドラムのパターンだけを聴いただけで、その作品にかかわっているアーテイストが判るというのも特色。例えばSHY FXや、Roni Sizeなどは代表的なプロデューサーである。また、ダンス・ホールのように、ベースの重低音、大きなノリも重要な役割を果たす。沢山の余分なダビング、例えばVocalやラガMCなどを省き、ビートとベースを前面に出したドラム&ベースというミックスの方法は、ジャングルの中でもクラブで人気のある代表的なスタイルである。

初期の頃は、Jungle Technoや、Happy Jungleという言葉にも代表されるように、ハード・ コアや、テクノの流れの“イケイケJungle"が多かったが、'93年頃からは、より重厚なラガ・ スタイルのジャングルが、数々の話題を集めた。これは、その言葉の通りラガMCや、レゲエの昔の曲のサンプルとジャングルのコンビネーションである。UKアパッチやジェネラル・ リービィといったTVにも顔を出すようなメジャー系ジャングルもこのラガスタイル。'94年春〜夏にかけて、一気にアンダーグランドからメジャーに、勢いを増して行く。またソウル、ファンク系のジャングルとしては、M-Beatの'Sweet Love' や、Tom & Jerry の 'Maximam Style' が耳慣れした楽曲のJungleバージョンとしてヒットした。

また一方、クラブや海賊ラジオ局が支えてきた、アンダーグラウンドでの人気を不動のもの にしたドラム&ベースの形態は、確実にファンを捕え、人気も以前とかわらず引き続いている。インストものの多いドラム&ベースの形態には、実験的なダビングをあわせるような作 品も出てきた。テンポも、以前の速いものから、メローなグルーヴのものへと移っていく傾 向にある。'95年に入ると、このような形態をIntelligent Jungleと呼ぶ様になった。ドラム&ベースの形態で、代表的なレーベルとされるのがSuburban Baseレーベル。そしてアンビエント、インテリジェントの形態で代表的なレーベルとして挙げられるのが、Moving Shadow と言えるだろう。2つのレーベルとも、音楽的にとても質の良いレーベルとして、ただヒット・ チャートを追いかけている様なレーベルとは一線を画している。それは、2つのレーベルと 深いかかわりのある’Boogie Time’レコード・ショップのシステムの音を聴いて頂ければ解ってもらえると思う。そして、耳の良い人は、直ぐに解るだろう。また、置いてあるレコード のセレクションや、訪ねてくる人々の雰囲気は、LONDONの郊外、電車で30分にある小さな 街にあるレコード・ショップとは思えない程、トンがっている。英国には、自分の街からは離れず、それをむしろ誇りに思って頑張っているレーベルがたくさんあり、皆、それぞれに都心から遠いにもかかわらず実力が有ることで、逆に人を引き付ける結果を招いていることがよくある。

このアルバムの、Moving Shadowのロブ・プレイフォードとSuburban Bassのダニー・ド ネリーも、その中の代表的な二人の若者として、今、最高潮にノっているレーベル・マネー ジャーである。

(WRITTEN BY NUTTY ‘M'/UMU Productions LONDON 0171-706-0140)