1993年7月1日木曜日

アンバサダーズ・オブ・ファンク 「ゴー・マリオ・ゴー」

 


GO!ゲームミュージックGO!

《日本発イギリス経由、世界リリース》
ゲームミュージックの近未来革命宣言!

 全ては1枚のFAXから始まった。英国ナショナルチャート8位を記録した『スーパーマリオランド』の日本側発売が92年の3月21日に決った後すぐの事、そのシングルを作った『アンバサダーズ・オブ・ファンク』のプロデューサー『サイモン・ハリス』からアルファレコードに次の様なFAXが届いた。

 …僕らは次のシングル用のレコーディングを終えている『ゴー・マリオ・ゴー』というタイトルなのだが、もし出来るなら僕らのこのシングルを日本から最初に発売してくれないだろうか? 何故なら日本は『ニンテンドーの国』だからだ。そして、僕たちは日本のスタッフと一緒にマリオのフルアルバムを作りたいのだがどうだろうか?…

 全ては始まった。彼らがロンドンでマリオのアイデアを思いついたのは92年の夏前だったらしいのだが、その少し前の4月1日からニンテンドーの国=トウキョウでは『TGNG/東京ゲーマーズ・ナイト・グルーヴ』という地下組織が、ゲームとクラブ&レイヴカルチャーの融合を目指し、クラブに家庭用ゲームハードを持ち込みプロジェクターに映してプレイ、そして福富幸宏氏をメインにしたDJプレイで踊りながらゲームするという、ワンナイトクラブイベントを敢行していた。

 そして、11月20日の『TGNG4/ノーコンティニュー・カウボーイ』でアルファレコードの洋楽ディレクターが、たまたま『スーパーマリオランド』のアナログを持って来てプレイした。その時遊びに来ていたのがファミコン&ゲームボーイソフト『ヨッシーのたまご』のゲームデザイナーである『ゲームフリーク』主宰の田尻智氏だった。その時、アルファのディレクターとTGNGのスタッフと田尻氏の間での会話は、

 …これが本の意味でのゲームミュージックなんじゃないだろうか? 交響曲や子供の為にアレンジされた現在のゲームミュージックシーンとはまったく違った何か新しい事が起こっているのじゃないだろうか…

 という共通の想いだった。そして、このイギリス版『スーパーマリオランド』の日本側リリースの許可を二ンテンドーから得たという事が想いを確信に変えた

 今までニンテンドーが、マリオのサウンドをアレンジしフルアルバムとして発売した事実はあった(例えば『スーパーマリオワールド』という2枚組のアルバムが発売になっている。その時のサウンドクリエイターは渡辺貞夫氏。プロデュースはドラクエのすぎやまこういち氏が担当。ジャズ&フュージョンアレンジのマリオワールドだった)。

 しかし、イギリスのゲーム好きミュージシャンが勝手にゲームサウンドをサンプリングして、しかも英語でMCマリオというキャラクターにラップさせるという強引な作品が許可されたという事実は、このプロジェクトの根底を支えるモノとなった。

 かくしてTGNGのスタッフとゲームフリークのスタッフにアルファレコードからサイモンの意志が伝えられた。

 …ゲーム好きなイギリスのミュージシャンとゲーム好きな日本のスタッフと一緒に世界発売を目指したマリオのアルバムを作ろう…

 そして、このプロジェクトのリリースシステムに大切なのはGMOレーベルの復活だった。それは、1986年に始まったこのレーベルが世界初のゲームミュージック専門のレーベルだったからである。

 そして、アルファGMOレーベルとロンドンのサイモンとゲームフリークとTGNGの間でFAXの意見交換がなされ。企画書が出来上り、本当の意味でマリオのふるさと京都へ向かった。そして、今や世界のミスターマリオ宮本茂プロデューサーに会見したのだった。

…うん。好きにやってください。マリオというキャラクターはね、マリオに愛のある人が、よってたかって大きくした様なモノですから。それにマリオワールド(TVゲームの世界観)を解ってくれる人が作っている様ですから、あとは好きにイジッて楽しいモノをつくってください…

 そして、この5月にアルバム発売のミィーティン為にサイモン・ハリスが来日。かくして東京↔ロンドンで同時に始まったゲームカルチャーの新しいカタチの真意を確かめるべく、日本側プロデューサー・田尻氏とイギリス側プロデューサー・サイモン氏の対談が始まった。

田尻 まず、サイモンが何故ゲーム音楽を素材として選んだのかを聞きたいんですけど。そして、数多いゲームの中で『マリオ』を選んだというのは?

サイモン うん。まず、ゲームが好きだったという事が大切だね。そう『パックマン』や『スペースインベーダー』の時代からね。インベーダーなんて家にゲームハードを買って来てやってたくらい(笑)。……でね。ゲームボーイで『スーパーマリオランド』をプレイしている時にBPM(楽曲のスピード)が120のBGMがあったんだよ。それでコレは、と思ったんだ。それから『マリオ』というキャラクターは、もう世界中で新しい時代の『ミッキー』と言われているくらいの存在だからね。

田尻 うん、そうだね。でも、なんでゲームボーイの音源だったんだろう。もうスーパーファミコンだって出てたはずだし、音で考えてもスーファミはステレオラインアウトだし、ゲームとしても4年前の『ランド』よりスーファミの『ワールド』の方が今では代表的だと思うんだけど……

サイモン うん。それはイギリスという国柄が大きく問題になってくると思うんだけど。まだまだイギリスでは、スーファミのソフトの発売が日本ほど普及していないんだ。例えば『スターフォックス』は、まだイギリスでは発売になっていないくらい。それに最初は、とりあえずイギリスでヒットする事が大切だったから。ゲームボーイは、イギリスで一番売れているゲームハードだからね。それで『ランド2』については、『ランド』のシングルのレコーディングをしている92年の夏の時点ではまだ持っていなかったんだ。…あと8ビット機(日本のファミコン)についてはイギリスではパル変換(TVのシステムが日本とは違う)のせいで日本のソフトが巧く作動しないからね。……いろんな意味で日本はゲームカルチャーの最先端だと思う。だから、今回のマリオのアルバム発売に日本のスタッフと一緒にやりたかったんだ。マリオというキャラクターを僕はディズニーと同じくらいの敬意を払って仕事をしたかったからね。

田尻 ほんとうに好きなんだという事が音楽からもわかるよ。僕は音楽についてはよく解らないけど、ゲームについては好きからはじまって、作り手にまでなってしまったくらいだからね(笑)。

サイモン うん。ミスター田尻が作った『マリオ&ヨッシー』(日本でのタイトルは『ヨッシーのたまご』)は好きなゲームだよ。今回のアルバムにも使いたいな。それでマリオの凄いところは、他のキャラクターと違ってニンテンドーのあらゆるジャンルのゲームに登場している事だね。それこそ『ニンテンドーゲームランド』の『ミッキーとその仲間たち』だね(笑)。僕は、ミッキーの大ファンでもあるんだ。ミッキーやマリオの共通点は、作り手が子供のモノだというスタンスでは決して作ってないところだ。大人が楽しんでやれないモノを子供が楽しめるワケがない。

田尻 うん僕がゲームを作る時にも同じだよ。…で、疑問なんだけどイギリスではゲームミュージックシーンはあるのかな? あるとしたら日本の子供的(アニメ的)なシーンと違うのかな。

サイモン うーん、残念な事だけど全くない。それこそ僕たちが最初だ。でも、その最初のシングルが大ヒットしたというのは、みんなが待っていたという事でもあると思うんだ。イギリスのゲームミュージック・シーンはこれから僕と田尻たちで作るんだよ(笑)

田尻 そうか。日本でもサイモンや僕が考えているシーンはないよ。ゲームミュージックの始まりは、ゲーム好きのYMOというユニットのミュージシャンが作った『ゼビウス』のサンプリングダンスミュージックだったんだけど、それがヒットしなかった事からアニメ的な、または作曲者自身がフュージョンに変えたり。音楽的には素人たちのゲームミュージックプログラマーたちがバンドを組んでライブをやる様な、ミュージックシーンにいつの間にかすり変ってしまったんだよね。……でも、これからが始まりという感じがするね。僕が今度マリオのニューソフト(『マリオとワリオ』というタイトルのスーファミソフト!)を夏に発売する為に作っているんだけど、その音楽もサイモンが気に入ってくれたら使ってほしい(笑)。

サイモン もちろん(笑)。今回、日本に来てイギリスや日本で新しいゲームミュージック・シーンが始まっている事を実感できたよ。

 そして、サイモンと田尻はニューゲームミュージックシーンのパイオニアになる握手をして別れていった。全てはこれからだ。

 マリオワールドは、今年ハリウッド映画『スーパーマリオ』になって全世界公開される。そして、今までの4本のファミコンソフトを1本のスーファミに入れたニューソフト『マリオコレクション』がリリースされる。その上、田尻氏がデザインしたスーファミ用オリジナルニューソフト『マリオとワリオ』の発売も世界中が待っている。そんな中、ゲームミュージック・シーンにも新しい革命が起こっているのである。

 そして、それは、8月1日に発売されるフルアルバム『スーパーマリオ・コンパクトディスコ(仮)』に全て集約されるはずだ。

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THANKS:NAOKO KAWAKAMI/GAMEFREAK