1992年7月21日火曜日

X-102 ‎「リングス・オブ・サタン」


  アンダーグランド・レジスタンス(以下、U.R.)の日本でのリリース第2作目にあたるこのX-102は、第1作X-101に続き、彼ら自身がX-プロジェクトと名付けるプロジェクトの第2作目だ。U.R.はデトロイトを拠点に活動するレコーディング・ユニットで、メンバーはマイケル・バンクスとジェフ・ミルズの二人。U.R.についてふれる前に、彼らの成立基盤を形成したデトロイトのインディペンデント・レーベルについてざっと振り返ってみよう。

 デトロイト・テクノは、1986年にインディペンデント・レーベル、『TRANSMAT』が第1作“X-RAY"をリリースしたことをきっかけに、シカゴ、ニュー・ヨーク等のおなじくハウス系インディペンデント・レーベルの乱立と相乗して成立していく。そうしたインディペンデント・レーベルは、クラブDJによって使用される、ブラックあるいはホワト・スリーブと呼ばれる無地ジャケット12インチ・ディスクのリリースを目的に設立されている。注目すべき点は、それらのレーベルが、従来のマスプロダクツによるレコード生産および流通からは切り離されたシステムの上に成立し勢力を拡大していった点だ。デトロイトの主なレーベルを挙げてみると、まずデリック・メイとジュアン・アトキンスの二人のDJ・リミキサーを中心に、幻想的な、あるいは攻撃的なシンセサイザー・サウンドをアナログリズムマシンのビートとともにミキシングするデトロイト・サウンドを確立したTRANSMAT。デトロイト・テクノがメジャー・マーケットにとりざたされるきっかけとなった、ケヴィン"マスターリーズ"サウンダーソンの自己レーベル『KMS』。ケビィン・サウンダーソンはパリス・グレイと組んだユニット、インナーシティが有名だけれど、REEZE名義でのシングルリリースをインナーシティと平行して行っている。KMSは彼の他にも、MK、シンボル&インストゥルメンツといったリミキサーたちのシングルをはじめ、数多くの12インチをリリースしている。さらに、TRANSMATがディストリビュートし、デリック・メイとの競作も多いカール・クレイグを中心に活動するレーベル『FRAGILE』。ケニー・ラーキンの『PLUS8』、カール・グレイグやMKも参加している『RETOROACTIVE』。デトロイト・アンビエントの代表格OCTAVE ONEが参加する『430WEST』など……彼らとそのレーベルは現れては消え復活し、インディペンデントにふさわしい流動的な戦略で(金が原因だろうけど)活動している。

 そうしたさなかに現れてきたのがURなのだが、そこにはデトロイトを統合したような音楽性を聴くことができた。リリースは遅かったがなぜかUR001のナンバリングを持つ、女性ヴォーカル、ヨランダをフィーチャーした“Your time is up"の、まさにシンナーシティそのものシンコペーションできまるストリングス・シンセから、ダブル12インチ"RIOT"ハードコア、SONIC EP“ORBIT"のメイ&ジュアン以上にメイ&ジュアン的(?)なサウンドといった具合いに。レーベル自体がまさか2人組のユニットだとは当初は誰も思わなかった。

 現在進行形のムーヴメントに対して多くを語ることはできないけれども、僕らはベールに包まれていたU.R.=マイケル・バンクス&ジェフ・ミルズにFAXを送った。かなり長いタイプ原稿が送られてきたので、できるだけ脚色をつけず、この場をかりて掲載させていただく。


Q1.

U.R.にとって、デトロイトとはどういった都市ですか。

A1.

 まず、インタビューに答えるのが遅れたことをお詫びしなくてはならない。そして、君が我々に興味を持ってくれたこと、しかもデトロイトで生まれ育った黒人から見た“本当のアメリカ”を日本人に説明できる機会が与えられたことは名誉なことだ、と言っておこう。

 デトロイトの人口の80パーセントは黒人であり、ドラッグやさまざまな犯罪、暴力、人種差別=爆撃、といった問題を抱えている。そう! 慢性失業も忘れることはできない。街の地政図を見れば、郊外には巨大な白人居住区があり、そこに住んでいるのは単なる人種的偏見から市街を見捨てて出て行った人々なのだ。彼らは黒人の隣には決して住まないし、絶対にそのつもりはないのだ。市街地と郊外には目に見えない境界線が引かれている。もし黒人がこのボーダーラインを越えれば、警察権力に迫害を受けることになる。――ロドニィ・キングがロス警察から袋叩きにされたことと同じだ。――我々の間では誰もが知っている、“D.M.Z.ボーダー”というその長さ8マイルの道路を未だに横切ったことの無い奴もいるくらいなのだから。市街地には脱出を試みようとする野心を無くした人々がざらにいる。彼らの無気力状態は、動物園の動物が艦が開いているのに逃げようとしないのと変わらない。そうした中で逃走をもくろむ一握りの黒人は、たいてい軍への入隊や、スポーツ、音楽、そして死といった手段で脱出を図ることになる。湾岸戦争の"砂漠の嵐”作戦の間、世界中の人々が多くの黒人兵を目にしたこともこれが原因だ。連中はアメリカという現実の戦争地帯から逃げだそうとしているのだから!!

 君たちは、なぜ他の移民と同様に“アメリカン・ドリーム”に便乗しないのかと問うことだろう。そう、君たちはこの200年あまりのことをざっと理解する必要があるだろうね。黒人は働き続け、他の人々の“自由”と“夢”のために死んでいったのだから。そのあいだ彼らは人間とさえ思われてなかったのだ。

 そのあげく、我々の夢と希望は他の移民達とは全く違った場所に向けられることになる。他の移民の夢は、とにかく豊かになって家族に安定した将来をもたらすことにあったが、我々の目指すものははるかに単純で、はるかに意味のあることだ。それは“自由”なのだ。

 君たちに理解してもらいたいのは、我々黒人はそういった逆境を乗り越え、何とか自分達の職業を確保し(少なくとも君たちが想像し得るような)プロフェッショナルを生みだしてきた、というとこだ。

 我々は、この国で戦争が起こるたびに戦場に駆り出されてきたにも関わらず、今だにアメリカ人として認められていない。――ロドニィ・キングをめぐる状況は我々の置かれた状況が何も変化していないことを再確認する不快な事件だった――我々はいまだに自由ではなく、しかも自国の言葉や習慣、伝統も何もかも全く知らないのだ。君たち自身が伝統のない日本を想像してみてくれ!

 そんなデトロイトの未来をイメージできるかい?

 カゴの中のネズミと同じく、捕まえられた人間に埋めつくされた一大中心街――そこでは強駅な精神力と肉体、生存への意志を持たないものは死を選ぶか、衰退(DECAY)によって消費し尽くされるしか無いのだ!!

Q2.

デトロイト・テクノについて説明してください。

A2.

 つまり、デトロイト・テクノは“衰退(DECAY)”から派生した音楽だ。人々は希望さえ持てないほどひどい状況に置かれ、なんとか順応して生きながらも、ついに逆境を乗り越えようとやっきになり始めた。最近のこのような“突然変異”としてマイク・タイソンはその代表的な例だし、パブリック・エネネーも、我々U.R.も然り、我々は皆ミュータントなのだ。デトロイト・テクノは人間とその環境が生みだした“突然変異”であり、人間とそのイマジネーション、そして機械がいかにして地獄から抜け出せるかという実験なのだ@

Q3.

U.R.にとってハウス・ミュージックとはなんですか。

A3.

 ハウス・ミュージックはシカゴから派生したものだ。シカゴの状況はデトロイトと酷似している。ハウスは平和、希望、愛といったポジティブな意味での逃走に焦点をあてているが、それは平和を維持するためには不可欠な要素だと思う。我々はこのような夢のある人達に、心から敬意を抱いている。なぜなら“夢”がなければ何も始まらないからだ。

Q4.

U.R.は、ガラージ、アシッド、ディープといった様々なスタイルで音楽を制作していますが、U.R.にとって音楽スタイルとはどういうものなのでしょうか。

A4.

 我々は音楽スタイルではなく、エネルギーとトーン(一般的に言う楽音、音素)とに分けて考えている。異なる楽音は異なるエネルギーを表す、というわけだ。もしジェフや私が、ポジティブなエネルギー、自らの精神から生まれる愛情を持つアーティストをプロデュースする場合、我々の考え(MIND)と機材を活用してその感情エネルギーを可聴範囲内でヴィジュアライズしようと務めるだろう。もしそのアーティストが、違った視点をもつとき――Tte VisionやU.R.のようにフラストレーション、怒り、実験精神ect.――はそれにふさわしいサウンドを探査しつつトラックにいれていくことになるだろう。

Q5.

ジェフとマイケルの役割分担を教えてください。

A5.

 U.R.+Tte VisionがX-プロジェクトで共同作業するとき、我々はMind Projecticon(精神投射)を実践し、様々な場所に移動する。非物質世界に自己をオトし、我々だけが知っているトーン(音素)を使って精神の中で自己を移送するのだ。我々が単一ユニットとして一体化(身体+特神)し、共同トリップした結果が音楽となるわけだ。

Q6.

X-101とX-102はU.R.サウンドにおいてどういったポジションに位置するのですか。A6.

 X-プロジェクトのすべては実験的なもので、リスナーの想像力を刺激するように設計されている。その結果、人類の未来への前進が可能になり、宇宙体系への直観力が研ぎ澄まされることになる。

Q7.

未来に向けて音楽はどのように発展すると思いますか。

A7.

 バイオテクノロジーの発展により、人類は現時点では可聴域外にある周波数の音を聴くことができるようになり、3D映像に対しても高解像度の視力を持つことが可能になるだろう。さらにホログラフィがタッチレスポンスを持つ可能性もある。そういったテクノロジーがAV製品の生産につながり、それによって音楽は前進をとげる。未来を指向するミュージシャンは常に現在より一歩進んだ音楽を創り出す。今我々がやっているように。

Q8.

フェイリバリット・アーティストを教えてください。

A8.

 地球上にはフェイバリット・アーティストは存在しない。

Q9.

現在、最も興味をもっていることは何ですか。

A9.

 明日を見届けるためのサヴァイバル。

Q10.

今後のスケジュール、また音楽戦略について教えてください。

A10.

 我々のスケジュールは散発性のもので、制御不能であり生命のようにまったく予測のつかないものだ。我々の戦略に狂いはない。ひとつのムーヴメントに向けて照準を合わせており、その運動は未来を指向している。

インタビュー構成 / 中島浩 訳/大坪弘人 remix,AUTOBAHN,LTD.